ハナ肇とクレイジー・キャッツ /クレイジー シングルス


クレイジーキャッツのシングルA/B面全てを網羅する2枚組のCDです。
発売順に収録されているので、一発目の「スーダラ節」から始まる一連の快進撃を辿ることが出来ます。

米兵相手に演奏しているころ、ハナ肇がスティックで自分の頭を叩くギャグを披露したのがバカ受けし、 それ以来植木等をフロントに据えてのエンターテイメントに走るわけです。それを渡辺プロダクションの社長に見出されTV進出、スーダラ節の大ヒット、映画進出と、快進撃の過程がわかりますが、CDの2枚目あたりから徐々に人気が落ちてきてパワーダウンしていきます。その後、長い活動停止期間があり、忘れた頃に植木等がソロで「これで日本も安心だ!」という曲を発表しますが、時代が代わっており曲調も違います。更に時代が進んで「実年行進曲」を発表し、これが最後のシングルとなります。

植木等氏と青島幸男氏とテレビ出演したときに言っていた話ですが、視聴者からの「実際のサラリーマンは一生懸命やっている。無責任ではない」という指摘に対して青島氏は「現実が大変だからせめてテレビの世界では楽しくしたい」と答えたそうです。また、「ホンダラ行進曲」の歌詞に「ひとつ山越しゃホンダラダホイホイ もひとつ越してもホンダラダホイホイ」というのがあり非常に能天気に感じますが、これには人生の山を幾つも越えなければならないという意味が込められています。こうした事実に植木氏は非常に関心したそうです。ずっと後になって知った事ですが、植木等という人は テレビと違って非常に真面目で地味な人です。これは、唯一植木氏が作詞作曲した「ギターは恋人」を聴くとよくわかります。一切ギャグなしの真面目な曲です。

一部の曲を紹介。

「スーダラ節」
説明不要。永遠の名曲。

「ドント節」
サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ。すばらしい。

「ハイ それまでョ」
バラードで入って、いきなりツイストになります。この展開こそがプログレの源流 (嘘)。テレビ出演時には実際にツイストを踊りながら歌っています。

「ギターは恋人」
これは「どうしてこんなにもてるんだろう」のB面のバラード。
真面目な人が、真面目な歌詞を、真面目に歌う。植木等の真の姿なのでしょうか。あまりにも真面目すぎて、バラードに必要な色気がありません。それほど真面目なんです。

「学生節」
作詞作曲が、いつもの青島幸男萩原哲晶コンビではないのでかなり曲調が事なります。
ほりゃ親父さん あんたの息子を信じなさい」「あんたの知らない明日がある」「ほれ恋人よ あんたのハートを信じなさい」勇気の湧いてくる曲です。たぶんあんまり売れてない曲ですが、私は好きです。

「だまって俺について来い」
これぞ究極の無責任。「銭のないやつぁ 俺も無いけど心配すんな」「そのうちなんとかなるだろう」余計に不安になりそうな歌詞ですが、そこは植木等の天才的な歌唱により本当になんとかなりそうな気がしてきます。

「遺憾に存じます」
なんとビートルスやら、ベンチャーズのデンデケのパクリ。しかもバックの演奏はエレキの王様・寺内タケシとブルージーンズです。三味線ギターにシビれます。

「これで日本も安心だ!」
長い休止期間の後に突然発表された曲です。これまでは自分自身の無責任さを歌っていましたが、今度は若い世代に文句をいう歌です。「いつかおまえらも自分でかせぐ そんとき泣いてもオラ知らねえ」と言っておきながら、最後に「これで日本も安心だ」ときます。究極の無責任です。
テレビで歌っているときは、曲の最後で演奏がフェードアウトしていきますが、植木本人はノリノリで歌い続けます。そこに番組司会者(いかりや長介とか高島忠夫あたり)が寄ってきて、「植木さん、もう終ってますよ」とかいうと、ちょっと間をおき、「およびでない? およびでない。こりゃまた失礼いたしやしたー」といってずっこけるエンディングになっていました。スタジオ録音では普通に終るだけなので、ちょっと残念です。
数年を経ての曲なので曲調が今迄と異なります。小松政夫氏の「たこふん音頭」と曲調が似ている気がします。小松政夫植木等の付き人だったそうですから、何か関連があるのかもしれません。

「実年行進曲」
クレイジーキャッツ最後のシングル。たしかビールか何かのCMで使われていたと思います。本人達が出演していました。
実年というのは、当時の文部省が中年と老年の間を指すものとして作った言葉ですが、全く定着しませんでした。ニュース等でも紹介されましたが、冷やかな反応でした。

最後のシングルが発表された後は何も活動していなかったと思います。リーダーであるハナ肇の死のとき、植木等が解散を宣言しました。